新型コロナで注意すべき精神・神経症状 英・システマチックレビューおよびメタ解析 2020年06月01日 05:10

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、診療現場で注意すべき患者の精神・神経症状にはどのようなものがあるか。英・University College London, Division of PsychiatryのJonathan P. Rogers氏らは、システマチックレビューおよびメタ解析を行い、結果をLancet Psychiatry(2020年5月18日オンライン版)に報告した。
SARS、MERSと比較したCOVID-19の精神・神経症状を解析
 一般にウイルス感染症では、中枢神経系へのダメージによる認知機能低下や行動異常、それらの「後遺症」としてさまざまな精神症状が起こりうることが知られている。そこでRogers氏らは、COVID-19におけるそれらの症状について網羅的に調べるため、それぞれ発生当時は「新型」コロナウイルス感染症として注目された重症急性呼吸器症候群SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)における精神・神経症状と比較するシステマチックレビューおよびメタ解析を実施した。

「coronavirus」「SARS」「MERS」「COVID-19」およびそれぞれのウイルス名に加え、「psychiatric」「neuropsychiatric」をキーワードに、2020年3月18日までにMEDLINE、Embase、PsycINFOなどに掲載された論文1,963報、2020年1月1日〜4月10日にプレプリントサーバーのmedRxivやPsyArXivなどに掲載された論文87報を抽出。中国、香港、韓国、日本、シンガポール、カナダ、サウジアラビア、フランス、英国、米国からの報告で、自主隔離によるメンタルヘルスへの影響など、ウイルス感染症と精神・神経症状の間接的な検討を報告した論文は除外した。

 英語で執筆された論文に限定し、各ウイルスの感染症例(疑い例含む)における精神・神経症状の直接的な関連を検討した72報(査読論文65報、プレプリント論文7報)について解析した。査読論文65報はSARS(47報)およびMERS(13報)、プレプリント論文7報はCOVID-19が対象であった。COVID-19患者の年齢は12.2〔標準偏差(SD)4.1〕〜68.0歳であった。

ICUでは精神錯乱や興奮が高率
 不安障害、うつ病心的外傷後ストレス障害PTSD)と診断された患者の割合や患者ついてメタ解析を行った結果、感染症の治癒後(post-illness phase)における各精神疾患の診断の割合は、不安障害が14.8%(95%CI 11.1〜19.4)、うつ病が14.9%(同12.1〜18.2)、PTSDが32.2%(同23.7〜42.0)であった。

 

急性期症例については、SARSとMERSにおいて27.9%で精神錯乱が報告されていた他、抑うつ症状や不安症状、不眠症状がSARSとMERSに共通して見られた。わずかながら躁病および精神病の診断例があったが、これについてはCOVID-19ではほとんど使われることのない副腎皮質ステロイド投与と関連していた。

 COVID-19患者を対象とした論文1報では、急性期の集中治療室(ICU)入室患者の半数以上で精神錯乱や興奮が認められた。また、退院時に3割超で遂行機能障害症候群が認められたとする論文が1報あった。

うつ病、不安障害、PTSDなどの「後遺症」に要注意
 今回の結果を受けて、Rogers氏は「パンデミックによってメンタルヘルスに影響を受ける可能性はあるものの、①いずれのコロナウイルス感染症においても大半の患者は精神疾患を発症することはなく②現在のところよく見られる神経精神的合併症は短期的な精神錯乱以上のものはほとんどないことーが分かった」と結論。その上で「診療に当たる医師は、うつ病、不安障害、疲労PTSD、そしてまれながら神経精神症状が『後遺症』として現れる可能性を知っておく必要がある」と指摘した。

 なお、解析対象とした論文の質については、査読論文65報のうち32報が低く、30報が中程度、3報が高く、プレプリント論文7報では2報が低く、4報が中程度、1報が高いと判断したという。「全体的に言えることは、ウイルス感染前の精神・神経症状の評価および適切な対照群との比較がいずれも不十分であることだ」と述べ、さらなる調査の必要性を訴えた。