深い眠りが脳の老廃物の除去を促す?


HealthDay News(2019/12/5)
 深い眠りについている状態であるノンレム睡眠中に、脳内の有害物質が洗い流されている可能性が米ボストン大学のLaura Lewis氏らの研究で示唆された。脳内を循環する脳脊髄液により老廃物の排出が促されることは知られていたが、その細かい様子は解明されていなかった。今回の研究では、ノンレム睡眠中に脳波が徐波化し、それを受けて血液の振動が起こり、次いで脳脊髄液が律動的に脳内を出入りすることが示されたという。この研究結果は「Science」11月1日号に発表された。

 Lewis氏によれば、脳内の老廃物には認知症患者の脳内に蓄積していることが知られるタンパク質のアミロイドβも含まれる。ただし、同氏は「今回の研究は深い眠りにつくことで認知症などの疾患を予防できることを証明するものではない」と強調。その上で、「この種の研究の最終的な目的は、なぜ睡眠の質が低いと認知症や心疾患、うつ病といったさまざまな慢性疾患のリスクが高まるのかを明らかにすることだ」としている。

 これまでの研究で、代謝の過程で生じる副産物が脳内に蓄積しないように脳外へ除去するプロセスにおいて、脳脊髄液が重要な役割を果たしていることが示されていた。また、このプロセスは睡眠中に活発になることも分かっていた。しかし、その機序や理由については不明な点が多く残されていた。

 そこで、Lewis氏らは今回、11人の健康な成人を対象に、非侵襲的な方法を用いて睡眠に関する研究を実施した。研究では、MRIを用いて脳脊髄液の流れを観察し、脳波によって脳内の細胞の電気活動を測定した。

 その結果、ノンレム睡眠の中でも大きくゆるやかな波が現れる深い眠りの段階である徐波睡眠中の研究参加者において、脳活動で徐波が起こるたびに血流の速さや量が変動し、脳脊髄液が大きな振幅を有する波として脳内の隙間に流れ込んでいることが分かった。

 Lewis氏らの説明によると、人は加齢とともに徐波の出現量が減少する。徐波が減ると、脳内の血流量にも影響が及び、睡眠中の脳脊髄液の律動的な動きが減少し、有害物質の蓄積と記憶力の低下をまねく。同氏らは、これまでの研究ではこうしたプロセスが個々に評価されがちであったが、今回の研究によりこれらが密接に関連している可能性が示されたとしている。

 今回の報告を受け、睡眠の専門家らは「これまでに明らかにされている脳脊髄液の働きを踏まえると、徐波睡眠は脳内の老廃物の除去を促していると考えるのが妥当」とする見解を示している。

 その一人で、今回の研究には関与していない米ノースウェスタン大学のPhyllis Zee氏は、「この研究は、脳の神経細胞を健康に保ち、脳内の有害物質除去を促すために睡眠が重要であることの理由や、その機序の解明に向けた手がかりとなるものだ」と話している。

 一方、米ワシントン大学セントルイス校のRaman Malhotra氏は、「脳から有害物質を除去する上で睡眠がどのような役割を担っているのかについては今回の研究を含めてエビデンスが集積されつつある。例えば、最近報告された研究では、健康な成人でも一晩眠らないだけで脳内にアミロイドβの増加が認められた」と説明する。

 なお、今回の研究は健康状態の良い若年成人を対象に実施された。Lewis氏は「今後は健康な高齢者や持病のある人を対象に研究を実施し、深い睡眠時に脳脊髄液の動きに違いがあるかどうか検討する必要がある」としている。

[2019年10月31日/HealthDayNews]Copyright (c) 2019 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
原著論文はこちら

Fultz NE, et al. Science. 2019 Nov 1. [Epub ahead of print]