糖尿病患者の摂取エネルギー量は心理状態で左右される

――東京大グループ
HealthDay News(2019/11/4)
 食事療法は糖尿病治療の基本だが、その順守は容易でない。原因の1つとしてストレスなど心理的要因の影響が考えられるが、その定量的な評価は困難。これまでにアンケートを用いた調査などが行われているものの、正確性や調査期間が限られている。

 こうした中、生態学的経時的評価法(ecological momentary assessment;EMA)という手法で、日常生活下で食事前の心理状態を評価し、摂取エネルギー量との関係を6カ月間にわたって調査した結果が報告された。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻ストレス防御・心身医学の吉内一浩氏らによる研究で、「BioPsychoSocial Medicine」9月4日オンライン版に掲載された。被験者の心理状態を従来よりも定量性に優れた方法で把握しており、長期間の調査である点で注目される。

 研究の対象は外来2型糖尿病患者9人(平均年齢49歳、男性6人、BMI25.5、HbA1c7.4%)で、被験者には専用の携帯型情報端末(PDA)を貸与。被験者はEMAの手法に則して、毎日4回(起床時、10時頃、15時頃、就寝時)、その時の「心理的ストレス」、「不安」、「抑うつ」の程度をVAS(視覚的アナログスケール)で評価しPDAに記録。またPDAの食事記録アプリへ毎食後に食事内容を記録し、摂取エネルギー量を算出した。

 EMAは、被験者が後から思い出して記録するのではなく、その事象が起こった時に記録するという行動医学の調査手法。思い出し法による調査で問題となる想起バイアスや虚偽報告が少ないということと、リアルワールドの状態を評価できるという特徴がある。EMAで評価された心理状態とその後の食事との関係の検討から、以下の有意な関連が認められた。

 まず、心理的ストレスとの関連については、食事に先行する時間帯に心理的ストレスが強いほど、昼食や夕食の摂取エネルギー量が少ないという負の関連が存在した。一方、間食による摂取エネルギー量は先行する時間帯の心理的ストレスが強いほど多いという正の関連があった。不安との関連は朝食との間でのみ認められ、不安が強いほど朝食の摂取エネルギー量が少ないという負の関連が存在した。また、抑うつとの関連は昼食との間でのみ認められ、抑うつが強いほど昼食の摂取エネルギー量が少ないという負の関連が存在した。

 心理的ストレスや不安、抑うつが強いと摂取エネルギー量が減る理由について、著者らは「ネガティブな気分は食事摂取量に感情面から影響を及ぼすだけではなく、自律神経反応を介して食欲を低下させる可能性があり、その影響も考えられる」と考察している。また、心理的ストレスによって間食の摂取量が増えることに関しては、「間食を摂取することにより、心理的ストレスを軽減するというメカニズムによるのかもしれない」と述べている。

 本研究では上記のほか、1人で食べる時よりも誰かとともに食べる時、また、自宅で食べる時よりも外食する時に、摂取エネルギー量が多くなることなどもわかった。研究の結論を著者らは「食事前の心理的状態は2型糖尿病患者の摂取エネルギー量に影響を及ぼす。この関連をより深く理解することで、過食を防ぐ手法の開発に役立つだろう」とまとめている。

[2019年10月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2019 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら