牡蠣とシャンパンの相性の科学的根拠
相性が抜群であることは、
グルメの間ではよく知られた事実です。
しかしその抜群の相性は
長年の食経験から導かれた一般通説であり、
その科学的理由や栄養学的な根拠は
明らかではありませんでした。
そんななか、
食品科学部門のオーレ・モウリステン博士らの
研究グループは、シャンパンの
旨み成分の1つであるグルタミン酸が
舌の味蕾にある旨み受容体に
結合するときに牡蠣に豊富に含まれる
ヌクレオチドが、その結合を
強化することを発見しました。
この食べ合わせにより、
牡蠣とシャンパンの旨みのシグナルが
相乗的に増強され、旨みシグナルが
脳に伝達されている科学的根拠が
明らかとなり話題を呼んでいます。
ヒトの舌には、
約1000個の味蕾と呼ばれる
味を感じる小器官が存在します。
この味蕾は、有郭乳頭と呼ばれる
円台状の乳頭の側壁に局在しています。
それぞれの味蕾には、
複数の味物質と結合する受容体を
細胞表面に有する感覚細胞が存在しています。
苦み成分、甘み成分、塩み成分、
旨み成分と結合できる受容体を
細胞表面に持っていますが、
最近の研究でその分子構造も解明され、
ヒトが様々な味を感じる
分子構造が解明されてきました。
旨み成分に関するこれまでの研究から、
アスパラギン酸や、
キサンチル酸などの有機酸が
旨み受容体に結合することが報告されています。
研究チームは、
イタリア産の発砲酒の旨み成分である
濃度を分析しました。
その結果、イタリアの発泡酒には
旨み成分はほとんど検出されませんでしたが、
シャンパンに関しては、
そのワイナリーとヴィンテージにより
7倍以上の濃度差があり、
最もグルタミン酸の濃度が高かった銘柄は、
ARルノーブル
ブラン・ド・ブラン・グラン・クリュ
(AR Lenoble Balanc de Blancs Grand Cru)でした。
モウリステン博士は
旨み成分の濃度差は、酵母菌の違いと
発酵条件の違いによるもとの考察、
ワインの香りや旨味に影響を及ぼしうる
成分の1つである点を強調。
いっぽうで、デンマーク産の牡蠣と
太平洋産の牡蠣のヌクレオチドを比較した結果、
旨みに関与していると考えられている
含有量は、デンマーク産の牡蠣が
太平洋産の牡蠣の2倍含まれていることが
分かりました。
これまでの研究で、
これらのヌクレオチドの存在下では、
グルタミン酸に対する旨み受容体の
シグナル伝達の閾値が低下することが
知られているので、
最も旨みを引き出せる組み合わせであることが
科学的に裏付けられたのではないかと考察します。
意外なことにヌクレオチドは
ほとんど検出されないことから、
できないだろうと推測できるため、
別の理由があるかもしれません。
自らが美食家であるモウリステン博士は、
ハムとチーズ、卵とベーコン、
トマトと肉の食べ合わせにも、
同様の旨み成分の相乗効果がある
可能性を示唆しています。
味に関する分子生物学研究により、
これまでの美食家の経験が
科学的に実証されるのみならず、
さらに美味しい料理の開発にもつながる
可能性があるかもしれない。
by白澤卓二先生より❤️👨🏫