🥛牛乳摂取で高齢時、大腿骨近位部骨折起こす

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https://youtu.be/dEjB_zt3J3I

N Engl J Med（2020; 382:644-654）に「牛乳と健康」の総説がありました。著者はハーバード大学の公衆衛生のドクターたちです。何げなく読み始めたのですが、あまりの意外さにひっくり返るほど驚きました。最大のポイントは「牛乳摂取で最終身長が伸びるが、高身長は高齢時、大腿骨近位部骨折やその他の骨折と強い相関がある！」です。

　思春期での牛乳摂取量と最終高身長とは相関があります。ところが牛乳をたくさん飲んで高身長になると後年、高齢となったときになんと大腿骨近位部骨折、その他の骨折、肺塞栓症、がんなどのリスクが増加するというのです。高身長自体にいろいろなリスクがあるということに驚きました。栄養状態が悪い発展途上国では小児期の牛乳摂取は無論、意味があります。しかし先進国で牛乳を1日3杯以上取ることは推奨しないというのです。

　N Engl J Med「牛乳と健康（総説）」最重要点は次の8点です。

①思春期の牛乳高用量摂取で最終身長が伸びる
②思春期の牛乳摂取はコップ1杯/日ごとに高齢時の大腿骨近位部骨折リスクが9%増加！
③高身長は大腿骨近位部骨折、その他の骨折、肺塞栓症、がんを増やす
④カルシウム摂取は骨塩量、大腿骨近位部骨折を改善しない
⑤小児は、低脂肪乳製品で体重が増加する。ヨーグルトは減量に有効かも
⑥牛乳摂取は前立腺がん、子宮内膜がんと相関
⑦全死亡率と蛋白源の関係：加工肉＞卵＞赤い肉＞牛乳＞魚＞鶏＞植物
⑧牛乳不耐性児は豆乳でアレルギー症状が改善する

🥛思春期の牛乳高用量摂取で最終身長が伸びる
　「へー」と思ったのは、2007年から2012年にかけての研究によると、十分に栄養が足りていても、牛乳を余分に飲むことにより長軸方向の成長が促進され最終身長が伸びるというのです。

🥛　そういえば研修医のとき、身長190cmを超える先生がいらしたのですが、小児期の食生活を聞いたところ、とにかく牛乳が好きで毎日1～2L飲んでいたとのことでした。ただあまり身長が伸びると、オーベンや教授と話すときいつも猫背になってそれが癖になり良くないとのことでした。

　🥛この身長の伸長が特殊なアミノ酸（特にleucin、isoleucine、valine）や蛋白同化ホルモンなどによるのかは不明です。leucin、isoleucine、valineは血漿インスリン様成長因子（IGF）-Ⅰを増やし、成長ホルモンの分泌を促します。leucinは特に哺乳動物のrapamycin (mTOR)経路を活性化し細胞増殖を促してアポトーシス（細胞の自殺）を抑制するのだそうです。

🥛思春期の牛乳摂取はコップ1杯/日ごとに高齢時の大腿骨近位部骨折リスクが9%増加！
　総説の中に世界40カ国・地域の牛乳摂取量と大腿骨近位部骨折頻度の相関グラフがあります。北欧諸国（スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド）は牛乳摂取量が多いにもかかわらず、大腿骨近位部骨折も大変多いのです。一方、アジア諸国（インドネシア、マレーシア、中国、韓国、日本、台湾）は牛乳摂取量が少ないのですが大腿骨近位部骨折も少ないのです。牛乳摂取量と大腿骨近位部骨折の発生は明らかな正の相関があります。

　🥛小生、各国の平均身長を調べたところ、北欧各国で特に男性は大変身長が高く、男性平均身長はスウェーデン180cm、デンマーク180.6cm、ノルウェー179.9cm、アイスランド181.7cmでした。数年前アイスランドを旅行したとき、背の低いわれわれ日本人から見ると皆、無駄に背が高いよなと思いました。

🥛アイスランド北部で西暦1700年ごろの民家を見学しました。寒さを防ぐため壁は溶岩をブロックにして厚さ2mぐらいとし、屋根は草や枝で葺いてその上に土をかぶせます。アイスランドは極北で森林がなく、材木は海岸の流木を使うので材木利用は限られます。台所の熱が廊下を通して各部屋に行き渡るようになっていました。燃料は馬糞、牛糞を使います。

🥛　驚いたのはベッドの小ささでした。ガイドの話だと昔は栄養が悪くてアイスランド人は身長が低かったとのことでした。野菜はジャガイモぐらいしかなくワインはスペインから輸入しました。肉はバターをつくる際できる酸性の水に漬けて保存しました。

🥛レイキャビク郊外の地熱発電所を見学したところ五月人形が展示されていました。尋ねたところ7つのタービン（流体で軸を回転させる原動機）のうち6台が三菱重工、1台が東芝製だとのことでした。そういえば空港に日本人家族もいて駐在員のようでした。

🥛　ここでは発電だけでなく地下数kmから200℃の熱水をくみ上げてレイキャビクまで27kmを直径70cm、ポリエチレン加工をした管で送ります。27km送ると91℃になり最終的に家庭に達するときは60℃です。温水は硫黄臭いのですが使い放題です。温水は家庭で使用した後、道路に流し冬の間に積雪しないようにし、そして海に流します。温水によりバナナや野菜が栽培され、なんと欧州へ輸出されています。アイスランドの平均月収は50万円くらいです。

🥛アジアの男性平均身長はインドネシア162.4cm、中国164.8 cm、日本171.2cm、韓国175.3cmです。日本女性は158.8cm、韓国女性162.6cmで韓国人の方がスタイルは良いようです。

🥛牛乳によって高身長になると、なぜ大腿骨近位部骨折が増えるのかその理由は書いてありませんが、骨粗鬆症で高身長となると転倒したときの衝撃モーメントが大きいからでしょうか？

🥛この相関はビタミンD、人種などの交絡因子（confounding factors）影響もあるのかもしれないとのことでした。

🥛男性では思春期の牛乳摂取がコップ1杯/日増えるごとに高齢時の大腿骨近位部骨折リスクがなんと9％増加します。思春期の牛乳高摂取と高齢時の大腿骨近位部骨折が相関するのです。一方、女性では牛乳摂取と大腿骨近位部骨折に相関はありません。つまりデータからは、男性の思春期での牛乳高摂取は高齢化時の骨折リスクを増すのです。

🥛というわけで、小児期の牛乳摂取の効果はよく分かりません。無論、母乳が利用できなければ乳児には価値がありますし、また発展途上国では牛乳の利点は大きいでしょう。牛乳は成長を加速し最終身長が伸びます。しかし高身長はリスクとメリットがあります。栄養が十分な地域で牛乳高摂取は高齢時の骨折リスクが増加するのです。

「発展途上国では牛乳は小児に意味があるが、先進国では過剰摂取は利益がなく害がある」ということを覚えておきましょう。著者の意見では「牛乳を3杯以上飲むことは推奨しない」とのことです。

🥛高身長は大腿骨近位部骨折、その他の骨折、肺塞栓症、がんを増やす
　高身長で心血管リスクは減りますが、大腿骨近位部骨折、多くの骨折、肺塞栓症、がんが増えます。今まで高身長による害なんて考えたこともなかったのですが大変驚きました。

　そういえば、骨粗鬆症ではBMD（Bone Mineral Density、骨塩量）と世界保健機関（WHO）のFRAX質問票の2つを合わせて、治療を開始するか決めます。このWHOのFRAXには必ず身長、体重（BMI）を入力します。痩せて細い老人は明らかに骨折リスクが高いからです。小太りのおばあさんは意外に丈夫なのです。そういうと皆さん喜びます。

　最新の骨粗鬆症治療については関連リンク1をご覧ください。

　まとめますと「牛乳摂取は最終身長を伸ばすが、高身長は大腿骨近位部骨折やその他の骨折と強い相関がある」ということです。

🥛 カルシウム摂取は骨塩量、大腿骨近位部骨折を改善しない
　つい最近までカルシウム＋ビタミンDは、骨粗鬆症予防に国内でもよく投与されてきました。関連リンク1のLancetの骨粗鬆症総説で大変驚いたのは、なんと「カルシウム（サプリで500mg推奨）＋ビタミンDの効果ははっきりしない」という点です。

🥛人体ってなかなか理論通りにはいかないものだなと、不思議に思っていたのですが、今回のN Engl J Med総説「牛乳と健康」で謎が解けました。「カルシウム摂取の閾値は低く、過剰摂取は余り意味がない」のです。猫にサンマをあげても1匹目はむさぼり食うけど2匹以上だとそっぽを向くのです。

猫といえば以前、病院からの帰り道で、横を向いてクシャミをしたところ、ドサッと音がしました。何だろうと見たところ、赤い防火用水の箱の上で猫が寝ていたのですがクシャミに驚いて背中から落ちたのです。猫が背中から落ちることがあるということは、このとき初めて知りました。

以前、南伊豆で大きな木の下で猿が死んでいました。状況からは木から落ちて頭部外傷を起こしたようでした。「本当に猿も木から落ちるんだ」と大変驚きました。

　5件のメタ解析で6,740人計814件の椎体骨折でカルシウムとプラセボを比較したところ、椎体骨折減少になんと差がありませんでした〔相対リスク（RR ）0.92、95%CI 0.81～1.05）〕。大腿骨近位部骨折はプラセボより、逆にカルシウム摂取群の方が多かったのです（RR1.64、同 1.02～2.65）。

　カルシウム推奨摂取量は、WHOでは500mg/日、英国では700mg/日です。それに対し、米国では50歳までは1,000mg/日、51～70歳は男性1,000mg、女性1,200mg、70歳以上は男女とも1,200mgとされています。

　この米国の推奨量1,000mg/日は2007年、10年の155人の成人でのカルシウム摂取、排泄バランスの研究で741mg/日だったことによります。しかし、この研究は2～3週の短期間で行われたものであり、また日ごろカルシウムを高摂取している人たちです。

　一方、普段からカルシウム摂取量が少ないペルー人男性ではなんと200mg/日でバランスが達成されたというのです。つまり「カルシウム摂取が少ない場合、体はカルシウム摂取量を増やせる（upregulate）！」という意味です。外来に来ている外国人女性に「このごろチリに帰っている？」と聞いたら、「先生、チリじゃない。ペルー！」と言われました。何年も帰ってないけど家族とは毎週スカイプで話しているそうです。どうもあの辺りの国の位置関係がよく分かりません。

　骨折の代理に骨塩量を用いたランダム化比較試験（RCT）でカルシウム1,000～2,000mg/日でプラセボに比べ骨塩量は1～3％増加しました。もしこれが維持されれば大きな意味があります。しかし1年後には、閉経前後、あるいは閉経後の女性ではプラセボと同じになっていました。カルシウム摂取をやめると、このわずかな差は速やかになくなるのです。ですから継続期間が1年以下のトライアルはあまり意味がないし、誤解を招く（misleading）というのです。

　米国男女1万人の検討では、カルシウム摂取量と大腿骨近位部骨塩量とは相関がなく、またカルシウム555mg～1, 100mg/日摂取は大腿骨近位部骨折リスクと関係がありませんでした。他のメタ解析でも牛乳1.5杯（serving）/週以上摂取または酪製品摂取は男女で大腿骨近位部骨折と関係がありませんでした。結局（overall）、酪製品の高摂取は大腿骨近位部骨折を改善しないのです。

　小児では成長にpositive balanceが必要なこともありカルシウム摂取量の推定が難しいのです。女児ではカルシウムバランスは400mg/日以下でもプラスになり、4～8歳でカルシウム摂取量は骨塩量と関係がないというのです。RCTでカルシウム摂取800mg以下の小児に、毎日牛乳3人前を18カ月摂取してもらいましたが骨塩量に差はありませんでした。

　したがって小児期のカルシウム高摂取で人生の骨バンクができるわけではないのです。人体は結局、カルシウム摂取200mg/日程度でもなんとかしてしまうのです。カルシウム摂取の閾値は低く、それ以上摂取しても骨塩量に関係がありません。

5. 小児は、低脂肪乳製品で体重が増加する。ヨーグルトは減量に有効かも
　小生が小中学生のころは学校で脱脂粉乳というのを飲まされました。皆まずいと言っていましたが小生は喜んで飲んでいました。「うまさ」の閾値が低かったのでしょうか。

　1万2,829人の思春期児童で3年間の低脂肪乳製品摂取はBMI増加と相関しましたが全乳や酪製品では相関がありませんでした。なんと低脂肪乳製品の方が逆に太るというのです。これは全体のエネルギー摂取量増加によるのかもしれないとのことです。結局、データからは低脂肪乳製品は推奨しません。

　1976年に英国で、581校の小学校で3年間昼に７オンス（198g）の牛乳摂取群と非摂取群との比較で、3年後の体重に差はありませんが、牛乳群は若干身長が高くなりました。

　29件のRCTでは、牛乳や酪製品摂取と体重に相関はありませんでした。ただ3件の大規模コホートでヨーグルトと減量に相関がありました。ヨーグルトは肥満予防、腸内細菌叢の維持に意味があるかもしれません。ただしヨーグルト摂取群は、普段から健康スタイルに気を使う人たちだからかもしれません。

　結論は、小児では低脂肪乳製品の摂取は全乳よりも体重を増加させ、推奨されません。ヨーグルトは減量に有効かもしれません。

6. 牛乳摂取は前立腺がん、子宮内膜がんと相関
　牛乳の摂取量と乳がん、前立腺がん、その他のがんとは強く相関しました。牛乳により血漿IGF-I（＝ソマトメジンC）が上昇するためかもしれません。なおカナダ、欧州では牛へのソマトトロピン（IGF-Iが上昇する）投与を禁止しています。

　前向きコホートでは、牛乳は前立腺がん（特に侵襲性、致死的前立腺がん）のリスクと一貫して相関（consistently associated）しましたが乳がんとは、さほど相関しませんでした。

　酪製品の総摂取量と、特に閉経後、ホルモン治療を受けていない婦人の子宮内膜がんと相関しましたが、これは酪製品中の性ホルモンによるのかもしれません。酪製品摂取と全死亡率の間に相関はありません。

7. 全死亡率と蛋白源の関係：加工肉＞卵＞赤い肉＞牛乳＞魚＞鶏＞植物
　以前、入院中のじいさんが『月刊ホルスタイン』という雑誌を読んでいました。乳牛農家の機関誌です。こんな雑誌が存在するということに驚きました。しかし、『日本整形外科学会雑誌』なんてのも一般人にとっては『月刊ホルスタイン』並みの驚きなんだろうなと思いました。

　なんでもこのじいさん、1965（昭和40）年の牛の品評会で全国1位になったのだそうです。牛乳を採るのはホルスタインか、ジャージー牛（英国産、茶色で小型、バター分、脂肪が多い）、肉牛は黒毛和牛が一般的だそうです。松坂牛も黒毛和牛です。

　話をお聞きしたところ、30年前まで家で乳牛を最大17頭飼っていて牛乳販売もしていたというのです。しかし厚生省（当時）が中小酪農家の牛乳販売を禁止し、その代わり「森永牛乳」の販売を許可されたとのことでした。多分その牛乳の不衛生さから、中小酪農家の販売を禁止したのでしょう。

　牛乳の殺菌はパスツール考案の低温殺菌法（Pasteurization）といって、63℃で30分間、または72～78℃で15秒間殺菌してブルセラ病や結核菌の殺菌を行います。ワインの殺菌もこの方法でアルコールを飛ばさずに風味を保ちながら殺菌するのだそうです。そういえばナイチンゲールの死因はブルセラ病（Brucellosis）だったようです。

　全死亡率と蛋白源との関連は、加工肉＞卵＞赤い肉＞牛乳＞魚＞鶏＞植物の順です。最悪の食物が加工肉（ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーガー）です。牛乳摂取が少ない場合、カルシウム摂取が問題になりますが、カルシウム摂取には牛乳以外には、kale（ケール、アブラナ科の野菜）、ブロッコリー、豆腐、ナッツ類、豆類、強化（fortified）オレンジジュースなどでも摂取可能です。ビタミンDはサプリで補充できます。

8. 牛乳不耐性児は豆乳でアレルギー症状が改善する
　幼児の4％で牛乳蛋白のアレルギーがあり、喘息、湿疹、食物アレルギーが現れます。牛乳不耐性児65人のうち44人は豆乳（soy milk）により裂肛も含めて症状が改善しました。