性行為によるCOVID-19の感染リスクは? 2020年05月08日 17:40

エボラ出血熱やジカウイルス感染症など多くのウイルスは感染者の精液から検出され、精巣炎を引き起こす場合があり、熱性疾患を介して男性の生殖機能と精子形成能に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されている。中国・Huazhong University of Science and TechnologyのFeng Pan氏と米国・University of Utah School of MedicineのJames M. Hotaling氏らの国際共同研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の性感染リスクについて検討。Fertil Steril(2020年4月24日オンライン版)に発表した。
精液中にSARS-CoV-2は検出されず
 Pan氏らは、軽症から中等症のCOVID-19から回復した成人中国人男性34例〔年齢中央値37歳、四分位範囲(IQR)31〜49歳〕を対象に、精液中の新型コロナウイルスSARS-CoV-2)を逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法を用いて測定した。

 その結果、全例でCOVID-19確定診断から中央値31日(IQR:29~36日)後の精液中にSARS-CoV-2は検出されなかった。ただ、6例がCOVID-19診断時にウイルス性精巣炎、陰嚢の不快感を訴えたが、SARS-CoV-2感染との関連は不明である。

SARS-CoV-2は精巣細胞に侵入できない可能性が高い
 SARS-CoV-2の侵入にはアンジオテンシン変換酵素(ACE)2とセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)が必須であるとされている(関連記事「COVID-19患者にはRAAS阻害薬の継続を」)。Pan氏らは、Utah大学が以前に公開したヒト精巣細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析を用いてACE2およびTMPRSS2の発現レベルを解析した。

 精巣細胞におけるACE2およびTMPRSS2の発現はいずれも非常に低く、両者の共発現は6490細胞のうち4細胞のみで認められた。したがって、SARS-CoV-2はACE2およびTMPRSS2を介したメカニズムではヒト精巣細胞に侵入できない可能性が高いことが示された。

 こうした結果から、同氏らは「COVID-19から回復した成人中国人男性の精液中にSARS-CoV-2は検出されなかった。ただ、本研究にはサンプルサイズが小さいことや、被検者が軽度から中等度であったためウイルス量が結果に影響した可能性など幾つかの限界があり、精液中のSARS-CoV-2の存在を明確に否定はできない。また、男性の生殖機能に対するSARS-CoV-2の長期的な影響についてはさらなる研究を要する」と言及している。

 

変更履歴(2020年5月11日):記事タイトル「性行為によるCOVID-19の感染リスクは低い」を「性行為によるCOVID-19の感染リスクは?」に変更しました。本研究は、COVID-19の性感染症リスクを検証することを目的に行われたもので、精液中にSARS-CoV-2が検出されなかったという結果は、「性行為」を「性器挿入」と限定的にとらえた場合は、感染リスクが低い可能性を示す知見といえます。しかし、多くの医師会員がコメントしているように、「性行為」には「性器挿入」以外にも多くの濃厚接触行為が含まれ、本研究結果は「性行為全体の感染リスク」には何も判断材料を示しません。当初の記事タイトルは誤解を与えると考え、変更しました