抗菌薬の繰り返し処方が入院リスクに

英国のイングランドウェールズにおける200万人超の電子カルテデータ解析に基づく研究で、抗菌薬の処方回数と入院リスク上昇との関連が示された。過去3年間の一般的な感染症に対する抗菌薬処方回数が9回以上の患者では処方回数0~1回の患者と比べ、3カ月以上経過後に別の感染症により入院するリスクが2.26倍であった。詳細は英・University of ManchesterのTjeerd Pieter van Staa氏らがBMC Med(2020; 18: 40)に報告した。

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処方回数に比例して入院リスク上昇
 van Staa氏らは、2000~17年にプライマリケアで上気道・下気道感染症、尿路感染症、中耳・外耳炎などの一般的な感染症に対して全身抗菌薬が処方された患者の医療記録を全英(CPRD)およびウェールズ(SAIL)の電子カルテから抽出して入院データとリンクさせ、3年前の抗菌薬使用回数で五分位に分けて別の感染症による入院リスクとの関連を検討。傾向スコアにより第1五分位群とその他の五分位群から背景がマッチする患者を抽出して比較した。1回の処方が1~2週間の短期投与を対象とし、慢性閉塞性肺疾患例や複数の感染症合併例は除外した。

 CPRDから210万人、SAILから60万人のデータを抽出。対象疾患に対する抗菌薬処方は、CPRDの場合で510万回であった。過去3年間の抗菌薬処方回数が増えるにつれ、別の感染症で入院するリスクは上昇した。CPRDの全体解析で、最初の処方から3~6カ月後に別の感染症で受診するリスク〔入院率比(IRR)〕は、第1五分位群(処方回数0~1回)に対して、第2五分位群(同2回)で1.23(95%CI 1.07~1.42)、第3五分位群(同3~4回)で1.37(95%CI 1.21~1.55)、第4五分位群(同5~8回)で1.77(95%CI 1.57~2.00)、第5五分位群(同9回以上)で2.26(95%CI 1.92~2.67)であった。

 また、入院リスクは経時的に上昇する傾向が認められた。CPRDの全体解析で、過去3年間の抗菌薬処方回数の第1五分位群に対する第5五分位群のIRRは、最初の処方から4~30日後で1.52(95%CI 1.34~1.72)、3~6カ月後で2.26(同1.92~2.67)であった。

 これらの結果は、合併症の有無別の解析や、SAILデータの解析でも一貫して見られた。

抗菌薬使用歴のある患者用の簡便なリスク評価ツールが必要
 van Staa氏は「近年、一般医(GP)も抗菌薬処方を減らす努力をしているが、一般的な感染症に対し適切な抗菌薬を処方するツールを持っていない。中でも、既に抗菌薬を使用している患者への処方において、その影響が大きい。したがって、累積処方回数の増加を招き、それによって重度の感染症リスクが高まり、入院に結び付くことを今回の研究は示唆している」と述べている。

 今回の研究では、入院と抗菌薬処方回数が関連する理由は明らかでない。同氏は「抗菌薬の過剰使用が腸内細菌叢の善玉菌を減らし、感染に対する抵抗力を弱めるてい可能性があるが、背景にある生物学的因子の特定には、さらなる研究が必要である」と指摘している。

 GPは多忙で患者の病歴を詳細に把握する時間がない場合が多い。また、主治医が決まっていない大病院では、医師は個々の患者のことをよく知らないが、カルテや病状を詳しく見直す機会は少ない。こうした状況では、一般的な感染症に対して、ウイルス性か細菌性かを確認せずに抗菌薬を処方する対応が取られがちである。同大学のFrancine Jury氏は「一般的な感染症に対し複数回の抗菌薬処方を受けた患者に対する公式なガイダンスは、ほとんど存在しない。そのことがさらに状況を困難にしている」と述べている。

 同氏は「GPのために患者の病歴に基づく抗菌薬適正処方ツールを開発中である。このツールにより、複数回の抗菌薬処方に関連するリスクが算定できるようになることを望んでいる」と付け加えている。